亡くなった父のこと
7月2日、父が亡くなった。僕の誕生日の一日前のことだった。
予期されていたことではあったので、その日が来たか、という感覚だった。慢性白血病の亜種と診断されてから、カウントダウンの日々だったのだ。良い薬と良い医療で6年ほど小康状態を保てたので、まぁよく頑張りましたよな、という感じ。 数ヶ月前に急性白血病に病名が変わってからは抗癌剤を入れながら入退院の繰り返しで、最後の最後は肺炎に勝てなかったという展開だった。 と言いつつ、退院期の間に魚釣りに(頻繁に)行ったり金婚式迎えたりと、バタバタした生活を楽しめたのではないだろうか。少なくとも悲壮感のある闘病生活とは程遠く、亡くなる一ヶ月前に新しいノートパソコンを買っては病室に持ち込み、家の模様替えをCADで作図して試行錯誤していたようだ。最後の入院は急だったのだけど、その翌週には魚釣りの予定がカレンダーに書き込まれてたし。のほほんとし過ぎではという気もしなくはない。
遺品となったそのノートパソコンを開くと、JW-CAD(建築系の人はみんな知ってる作図用のソフトウェア)で作られた大量の図面が残さてれている。完全に引退して数年経つので仕事のデータは残されていない(父は建築の設計図を書いていたのだ)(残されてても困る)。じゃあ何の図面かというと、家を立ててから今に至るまでの、実家の家の図面の履歴なのだ。父は大規模建築を仕事にしてたので一般家屋は専門外なのだが、こまかーいところまでミリ単位で製図された実家に、これもミリ単位で作成された家具オブジェクトがみっちりと配置されており、このモチベーションは一体何なんだろうと問い詰めたい気持ちがある。

亡くなる数日前までパソコンで作業してたそうなのだが、僕が曲がりなりにもソフトウェアエンジニアとして禄を食んでいるのも父の影響が大きい(自分はGboardというAndroidの文字入力アプリを開発してる人です。今もPixel Tabletと物理キーボードを使っているところ)。 父は建築の人ではあったのだけど、僕が小学2年生のときに突如FM-16βというパソコンを買ってきて、仕事で使い出したのだ。行番号BASICで建築の計算アルゴリズムを実装して、いろいろやっていたようだ。 小学生としてはパソコンでゲームしたい気が満々だったのだが、不幸にしてそのパソコンはマイナー機種だったためゲームなんか殆ど存在せず、仕方ないので雑誌に乗っているコードを手写しして遊ぶということをやっていた。しまいにはBASICで書かれたレイトレーシングのコードをゴニョゴニョいじって、ピクセルパターンを使った多色化やらモデリングやらをやっていた。当時どうしてもベクトルという概念がよくわからなくて(プリミティブオブジェクトを表現するのに必須だったのだ)父に聞いた記憶がある。よく小学生にベクトルとか教えてくれたよな。正直この頃が自分の知的ピークだった気もしなくはない。プリンターの制御コード見て俺俺マークアップ言語みたいなの作ってたし。
父が少しずつ死者に近づいていく最後の数日間を、病室で共に過ごせたのは僥倖だった。 死に目に会えた、的な話でもあるのだが、それは父がゆっくりと生者から死者へと遷移していくグラデーションを見つめる時間でもあった。 100%の生者だった父が数年かけて90%くらいになり、急性期に入って70%くらいになり。亡くなる前日にも昔話をしたり、帰ってからの予定を立てたり、ビデオチャットでうちの子たちと話したりしたときには80%くらい生きてるな、と思ったものだった。脈が止まり、死亡宣告が降りるまでの20分間は何%だろうか。父の死亡が確認されたあとも、看護師さんたちは呼びかけながら作業をされていて、まるでまだ生者を扱っているようだった。安置室、通夜、告別式、火葬と進むにつれ、生者度が確実にだがゆっくりと0へと近づいていく。 このグラデーションは、生きている者たちのことを考えた、よくできた流れだった。
2024年に読んだ本と漫画
毎年書こう書こうと思いつつ書いていなかった、今年読んで良かったものを今年こそ書いてみるなり。
悪意の科学: 意地悪な行動はなぜ進化し社会を動かしているのか?
今年は図書館が近くなったこともあって図書館ばっかり使っていたのだけど、何を借りたかの履歴が残らないので何を読んだのか殆ど覚えていないのであった(出だしからホントひどい)。天文学とか土木とか刑法とか、全然知識のない分野の入門書をランダムに借りるという読書体験をして、とても有意義だったとは思うんだけど。
その中でも圧倒的なインパクトを残したのがこの本。 もう、ハンロンの剃刀(無能で十分説明されることに悪意を見出すな)とか言ってられなくなる。
この本は、悪意を「自分がコストを払ってでも相手に損害を与える行動」と定義する。これは「相手にコストを払わせて自分に利益をもたらす行動」である利己行為とは異なるヒト特有の行動原理で、近隣種であるチンパンジーには悪意は見られないんですってよ(あと他で読んだところによるとサイコパスの人もこの傾向が弱いそうな)。そして、ヒトの行動原理が強く悪意に駆動されていることを、最後通牒ゲームのような経済ゲームを通して示していく。
我々に対する悪意の影響力があまりに強いことに天を仰ぎそうになるが、ルールを守らない人にペナルティを与えるという悪意によって社会秩序や正義が守られるという側面もあり、悪意が必ずしも悪いだけのものではないことも指摘する。とはいえ、悪意によって駆動される正義の人が極めて厄介なのも周知の通りだ。 2024年は様々な選挙イベントがあって、結果はまああんな感じだったけれど、自分たちに不利益をもたらす候補者に投票した人たちは愚かなのではなくて悪意に駆動されていたのであり、ヒトとして自然な投票行動だったんだよ(お前を殺して俺も死ぬ)、という気づきはある意味救いかもしれないし、絶望かもしれない……悪意を誘発させればヒトを思い通りに動かせるわけで。
ヒトという脆弱性だらけの生き物、しかも修正パッチが入る予定はなく、新しい脆弱性や有効利用の方法ばかりが発見されるという、共通脆弱性評価システムだったら10.0間違いなしの我々、ホントどうしたらいいんすかね。七日七晩でテキトーに作った奴には責任持って修正パッチ導入して欲しい。
橘玲さんの書評が良いので気になった人はご確認をば。 diamond.jp
今年1巻が出たおすすめ漫画
イズミと竜の図鑑
ダンジョン飯なき今、一番楽しみなのがこの作品。
「竜」という(いわゆるドラゴンじゃなくて)超越的な生物を取材する編集者とその護衛が主人公で、パーティ組んで魔王をやっつけよう的なよくあるファンタジーとはちょっと違う世界観の物語、なのだけどとっつきにくい感じではなくて物語が進むに従ってちょっとずつ開示していくような作り方になっている。
編集者としてはプロでも冒険者としては素人なイズミが健気で、冒険者としては玄人でも文字書きとしてはド素人なアレフが……獣人でイケモフ(イケメンなモフモフ)なアレフが、とても良くて、良い。イケモフ主人公がこんなに魅力的な作品見たこと無い。
隔月連載なので刊行ペースが遅いんだけど、メイドインアビスよりよっぽど早いので大丈夫。
天傍台閣
この熱量の作画で当初は週刊連載をしていて、正気を疑っていたら月刊になったので安心した作品。
もともと短編で國我政宗の呪難というド熱い作品を出していたので、連載はまだかと正座して待っていたら天傍台閣の連載が始まり、期待以上のクオリティで滂沱に咽んでいたところ。同じ世界の話ではあるみたいだけど。
絵が下手だったり世界観の魅力がイマイチだったら引っかかるような行動や発言もあるんだけど、見て見ぬふりをして続刊を待ちたい。
無敗のふたり
ヤクザが出てこない遠藤浩輝は当たり、の法則により、この作品も面白いことが確定。オールラウンダー廻に続き格闘技ものの作品で、よくあんな人体が不自然な形で絡み合ってる画を大量に定期的に描けるよな、さすが美大卒、などと感心してしまうのも同じ。
ふつうの軽音部
どうせもう読んでるでしょ?
僕がこの作品の好きなところの一つが、ふつうの軽音部なのでコピーバンドばかりというところ。他の作品だとすぐにオリジナル曲作って売れっ子ロードを爆走、という展開になるところが、楽器未経験者がたどたどしくコピーバンドをやって成長して、地味な目標を達成していく……という地に足ついたリアルなふつうを描いているのが、なにげに新鮮なのだ。自分の場合だけど、スポーツものだってなんだって、すぐにハイレベルな舞台に行っちゃって宇宙超人タッグトーナメント見てる気分になって興ざめになるんだよね。
コピーバンドなので、あの曲やるんだ、とか、あのキャラクターは実在のあのバンド絶対好きそうだな、みたいな楽しみ方もできる……ので、Spotifyで年間一万時間以上聞いてる人は絶対読むべき。
予想として、最後の最後に主人公の子の名字が変わると思ってるんで、あたったら褒めて欲しい。
ドカ食いダイスキ! もちづきさん
いや、これ、ゾーニング無しで書店で売っていいんすかね……。
人を殺す/殺されるという非日常的な不道徳が創作物の中で溢れかえってしまった結果特別感を失ってしまった昨今、暴飲暴食によりじわじわと健康を不可逆的に失っていくという日常的な不道徳が目を背けんばかりの特別感を与えてくれる作品。
この作品のコラボメニューが出るそうだけど、非実在人物に対するabuseよりよっぽど非道徳的じゃないすかね。
今年盛り上がったおすすめ漫画
追うのを途中で止めてたら、再開する良い機会。
推しが武道館いってくれたら死ぬ
同じことをずっと繰り返す作品かな、と覚悟してたのだけど、(半ば予告されていた)区切りが来て盛り上がりを見せた。
新九郎奔る!
ゆうきまさみが合戦を書いたらこんな感じになるのね流石、という盛り上がり。パトレイバー好きだった人はぜひ読むべし。
ずっと青春ぽいですよ
アイドル研究部がドタバタしながらアイドルをプロデュースする話で、純粋なドタバタ喜劇だと思っていたらここに来てタイトルの重みが増してくるという盛り上がり。良いタイトルだなあ。
ビバリウムで朝食を
22世紀から来たロボット(ネズミが苦手)がないしょ道具を使ってあれこれする話。こういう世界なんだという開示があり盛り上がりを見せた。道満晴明氏、ずっと好きなんだよね。
正反対な君と僕
連載終わっちゃったよぉぉぉ……
完全に親目線で読んでいたのだけど、主人公以外の正反対カップルが良い盛り上がりを見せてくれた。
罠ガール(完結)
狩猟、しかも罠、というニッチなテーマで完走してくれた作品。最後の最後に狩猟者が絶対会いたくない生き物が出てきて盛り上がる。もう描くテーマ無くなっちゃったのかな。猟銃については先行者多いし。
淡島百景(完結)
宝塚音楽学校と宝塚歌劇をテーマにした、志村貴子氏お得意の群像劇。青い花と同じ世界の話で、主要登場人物やその子供も出てくる。
避けて通ることもできたかもしれないイジメと自殺の問題を、最後にほぼ真正面から描ききった。すごい。本当尊敬する。
異世界ありがとう
異世界転生モノなんだけど、優れた能力や過去の知識を振りかざすでもなく、ただただ拗ねたり憧れたりする話で、結局誰もが持つそれぞれの劣等感とどう向き合うか、というのがテーマになりつつある感じがする。みんないい奴なので幸せになって欲しい。
ギターを練習し始めた(2ヶ月経過)
なんも書かずに一ヶ月が過ぎてしまった。そもそもあんまり日本語書きたい欲が高くないのが良くない。
9月もなんだかんだで20時間ほどギターを触り続けたようだ。僕に使える自由時間は20時間/月が上限説は正しそうで、ちょっとぞっとする。
Yousicianの進捗はレベル5に入ったところで、Fコード、プリング、ハンマリングなどをやっている。初心者殺しのFコードなのだがこれはレベル4の課題になっており、Yousicianはオープンコードとして教えてくれるので全然難しくない。調べてみるとレベル7あたりまでバレーコードはでてこないようだ。流石に甘やかし過ぎでは? ということで、勝手にバレーコードのほうのF、ついでにBとBm、を練習している。あとGも音を出しやすいけど使いにくいフォーム(1弦を薬指で押さえるやつ)を教えられていたのだけど、僕がこれをやると肘にデコピンされたようなしびれが走って辛いので、よく使われる方のフォーム(1弦を小指で押さえるやつ)に変えた。
計40時間ほど練習するとどのくらい弾けるようになるかだが、
- あいみょんの君はロックを聴かないのサビのコードが70%位の速度で弾ける(出てくるコードはC, D, Em, G, B, Bm)
- 青春コンプレックスのメロディーが90%位の速度で弾ける
みたいな感じで、ギター弾けますと自称するにはまだまだな進捗だ。
まだまだ全然指が動かない割に、Yousicianはプリングだのハンマリングだの目新しいテクニックを教えてくれるので、飽きないという意味ではいいかもしれない。多分普通のカリキュラムだとこういうのはもっと後で教えると思うんだけど。ただこのアプリの問題点として、
- 楽譜(TAB譜含む)が全然読めるようにならない。音ゲーを遊んでる気分。
- どこを弾いたらどの音が出るか、の脳内マッピングが出来上がる気がしない(ピアノだとこの鍵盤押したらあの音が出るな、みたいなのがそのうちマッピングされてくるんだけど)
- 音を止める技術がまだ出てきてない。レガート奏法より先にそっち教えてほしい。我流でミュートしてるけど自信がない。
というのはだんだん気になってくる。けど、全体的によくできたアプリだなと思う。日本の曲だけ検索できるようになってくれるともっと嬉しい。
ギターを練習し始めた
全くもって唐突なのだけど、8月の頭からギターを練習し始めた。
経緯
ここ数年、7月の誕生日のたびに何かを始めるようにしていたのだった。第二種電気工事士を取ったり、3Dプリンターを始めてみたり、電子工作を(再度)始めてみたり。 一旦初心者という立場に身を置くというのはなかなか悪くなくて(いや本業も永遠のノービスクラスという感じではあるんだけど)、学習曲線の急峻なところだけをエンジョイできるし、中途半端に育った自尊心を叩きのめす良い機会にもなる。あれですよ、凱旋将軍の耳元に「お前はただの人間であることを忘れるな」とつぶやき続ける奴隷の役割。
今年は何をしようかなと思っていたのだけど、ゲームするのをしばらくやめてみたら結構時間を作ることができることに気づいたので、せっかくだからギターでも始めてみるべかなと決意するに至った。 もうそろそろ50歳だし無理目の課題かな~とは思ったものの、ギターライフというゲームの開発者インタビューで50時間くらい練習すればある程度弾けるようになるということだったので、なんとかなるのでは? というかゼルダの伝説ToKに200時間、スプラトゥーン3に200時間、エルデンリングに200時間突っ込んできたこと考えたら余裕では? という前向きな思考と、奇遇に奇遇が重なりエレキギターを無期限貸与してもらうことが決定打となった。 まあ、それぞれ200時間突っ込んでも下手っぴゲーマーなので、ギターに200時間突っ込んでも下手なのではという悲しい予想はしてはいるのだけど。
用意したもの
エレキギター

YamahaのRevstarという、たぶん結構いいものを使わせてもらっている。正直良し悪しは何もわからんので猫に小判感が凄いのだけど、大塚家具で見かけた高級な家具と似たオーラを放っているのは間違いない。なんというか、工芸品として優れている感じ。
そこそこ重い方の機種ではあるらしく、会社の音楽室で担いでみたテレキャスター、ストラトキャスター(両方ともよく見かけるタイプのエレキギター)を3000円分買い物したスーパーの袋とするなら4000円分くらいの重さはある気がする。でもその隣においてあったレスポール(これもよく見るタイプ)が5500円分くらいの重さがあって、これは無理やなと思った。ぼっち・ざ・ろっく!の主人公はこれ担いで毎日登校してたわけで、若干過酷では?
ピック (300円くらい)
会社近くの楽器屋で適当に数枚買った。薄手の方が手に馴染む感じがするので、0.7mmのおにぎり型を使っている。
チューナー (1500円くらい)
スマートフォンでどうにかなるので買わなくてもいいと思う。
カポタスト (2000円くらい)
クリップみたいにネックに挟んで転調させるやつ。下手な人向けの補助器具という印象があったんだけど、今はプロアーティスト(ポルカドットスティングレイとかMrs. GREEN APPLEとか)でも普通に使ってて時代の流れを感じなくもない。
既存の曲を簡単転調して弾くのに便利なんだけど、必要になるまで買わなくてもいいと思う。猫が可愛いので買ったけど。
ミニギターアンプ (12500円)
こんな便利なのが12500円で買えていいんですか……? パワードスピーカーとして使えるだけじゃなくて、アンプシミュレーターが入ってて、スマホあるいはPCから音作りができる、んだけど僕のようにズボラな人はプリセットから選ぶだけでクリーントーンからディストーションまで一通り遊べる。Bluetoothスピーカーとしての機能もあって、曲に合わせて弾いたり練習アプリを出力させたりすることもできて、便利すぎる。ドラムマシーンも内蔵されているらしいが使ったことがない。 本当にこれ12500円で買えるんですか? 令和怖くない?
Yousician (1167円/月)
練習用のスマホアプリ。後述。
練習
教本なり動画なり見て練習するのが王道なのだろうけど、せっかくなのでアプリで練習している。Yousicianというアプリで、音ゲーみたいなインタフェースに合わせて音を出すと上手いこと認識してくれてPerfectとかLateとか判定してくれる。和音の認識は流石にそこまでの精度は出ないのだけど、明らかに外すとバレる。

習ったことだけを使って練習曲を弾かせてくれるので、いきなり難しいスキルを要求されてやる気が無くなる、という教則本にありがちな展開がない。これはなかなか凄くて、レベルが10まであるのだけどバレーコード(FとかBコードなんかの、初心者挫折ポイント)が出てくるのがようやくレベル4なので、それ以下のレベルはバレーコードなしで練習曲が構成されているのだ。まあいきなり挫折されたら月会費がもらえませんからな。
(2024-09-02 追記: レベル4でFが出てきたのだけど、バレーコードじゃなくてオープンコードの押さえ方を提案してきて、意地でもバレーコードを弾かせないその心意気に感心した)
練習曲はYousicianオリジナルと著作権が切れたような古い曲に加え、よく知ってる、あるいは知らない洋楽も多く提供されていて、洋楽好きな人は楽しんで練習できると思う。同じ曲に対し複数のレベルが設定されていて、レベル1だと簡単なリフを弾くだけなんだけど、レベルが上がるにつれてパワーコードが入ったり、もとのコードが入ったりして、レベル10付近になるとオリジナル譜面を演奏することになる。
邦楽は練習メニューにはないものの、数少ないながら譜面としては登録されている。邦楽一覧、という検索ができないので網羅はしてないんだけど、アジカン1曲、髭男3曲、Mrs. GREEN APPLE1曲、YOASOBI2曲、あいみょん2曲、King Gnu1曲、結束バンド5曲は見つけた。結束バンド優遇され過ぎでは。くるり、Vandy、BUMP OF CHICKEN、RADWIMPS、リーガルリリーは見つからず。
そんなこんなで、手元の記録によると一ヶ月で22時間練習をしてきたようだ。ゲームのプレイ時間も20時間/月以上は作れなかったので、このあたりが僕に作れる最大限の時間と考えてよかろう。え、たったこんだけ? 僕の死ぬまでの総自由時間ってもう相当限られてる? などぞっとする事実を突きつけられる。でも一人で時間を使ってると奥さん怖いんで仕方ないんすよ……
22時間練習してどの程度弾けるようになったかというと、レベル3が終わり、C, D, E, Em, G, A, Amが弾けるようになった。進捗遅くないですかね? 未だにバレーコードを要求してこないYousicianの過保護っぷりよ。 途中流石に飽きて、コードが簡単そうな曲を探して弾いたりもしていた。ばらの花(くるり)、リッケンバッカー(リーガルリリー)あたりは3, 4個のオープンコードで弾けるので初心者フレンドリーだった。正直、好きな曲ベスト10入りであるばらの花を弾けた時点で「もうここで辞めても一定以上の達成感は得られたな」という意識の低いエクスキューズが脳裏をよぎる。
アプリには基本あんまり文句はない。とはいえ、変なクセがついても指摘してくれるわけではないので、そこが一人練習の怖いところではある。周りに上手い人がいないなら、レッスンにも行ったほうがいいと思う。ギター担いでレッスン行くのが面倒くさくてそこまで踏み切れていない。
年取ると技能を身につけるのが遅くなるよ、とよく言われる。でも、個人的には若い頃より何やるにしても習得の効率が随分良くなっているように思ってる。20代に挫折したことが、20年経ってもう一度やってみたらあっさりできるような経験もしてるし、飽きずに継続するコツなんかもいくつか習得している(時間を記録するとか、お金かけて効率化したりとか)。一流になるには若い頃から始める必要があると思うけど、上手くならなきゃとかそういうプレッシャーがなくなったお年頃に色々つまみ食いするのもなかなか楽しいもんですよ。
余談
音楽の聞き方が変わった。どういう手の動きしてるんだろうとか、ここでリフ担当とコード担当が入れ替わるのねとか、解像度が上がるという陳腐な表現がまさに当てはまるような。 電気工事士の勉強をしてから街を歩くと引込線が気になったり、3Dプリンター使うようになるとちょっとした部品の造形に感心するようになったりして、既に何度も解像度の上がる経験をしているんだけど、未経験から初級者になるとこういうのが楽しい。
3Dプリンターを買って9ヶ月が経ったけどこんな物を作ったり買ったりしたよ
昨年の夏に引っ越しし、部屋が広くなったのを良いことに3Dプリンターを買ったのが昨年10月のこと。
三日坊主になるかなと恐れていたのだけど(四十路ともなると三日坊主の記憶に事欠かない)、出来合いのモデルを印刷するだけでなく、3D CADを学んでオレオレモデルを印刷したり、簡単な電気回路やマイコンと組み合わせて工作したりと、後悔しない程度には使い込んでいる。
今まで設計してきたもの
代表的なものだけ。
犬

いろんなモデラーがあるのは知っていたけど、どうせならCGもできたら一石二鳥だよねということでBlenderを使い始め、チュートリアルで作ったもの。 犬飼ってるのにこれは酷い、と家族からさんざん叩かれる。しかも印刷もうまくできなかった。
弁当箱の仕切り板

なくすと意外と不便なアイテム。デジタルノギスで寸法を取ってBlenderで作ったのだが、家族には好評であった。のだけど、食洗機にかけたら一発で融解してしまった。PLAの耐熱性の弱さを思い知る。その後ABSで作り直したのだが、お弁当本体が壊れてしまいゴミ箱へと消えた。
そして、デジタルノギスで寸法を取る必要があるようなものは、Blenderは向かないんじゃない?という結論に至る。
めがねホルダー

FreeCADによる最初のモデル。寝る時にメガネを置く場所に困っていたので、ヘッドボードにかけるめがねホルダーを作ってみた。初めて作った割にできが良く、非常に便利だった。後に腕が折れてしまったので改良版を作り、今に至る。

暗いと見えないので蓄光塗料を塗っているところ。
テレビリモコンの電池の蓋

数年前にリモコンの電池の蓋のツメが割れてしまい、セロファンテープで電池を固定していたのだけど、流石にカッコ悪いし不便だったので代替品を作ってみた。これはモデリングだけじゃなくて試行錯誤に時間がかかり、既存のものにピッタリはまる部品を印刷することの難しさを身を持って学ぶことになった。そしてデジタルノギスのありがたさを再認識する。
ヘアゴム用アクセサリの芯

奥様の手芸用の部品。これを二つ用意してヘアゴムを挟み、気合を入れて押し込むと球となってアクセサリの芯になるのだ。これは評判が良くて、じきにバザー向けに大量生産の予定。
自作キーボードの筐体

会社の遠足で自作キーボードを作ったのだけど、筐体が高かった(4000円くらい?)ので自分で作ったるわ!と意気込んで作ったもの。これはもう本当に時間がかかってしまい、現物合わせでモデル作るのって本当に手間なんだということを再認識させられた。買う価値あるわ。キーキャップも作ったけど、これもちょっとゆるいと取れるし、ちょっときついと嵌まらないしで。
培養槽

ほら、脳とか人工生命体とかを培養槽で育てたいじゃないですか。謎に光ったり、泡が出たりして。なので、光って泡が出る培養槽を作った。
これは無駄に数カ月を要し、
- ペットボトルを使えば簡単にできそう → プレーンなデザインのペットボトルは案外少なく、上下を切ると意外と寸足らずだったので却下。100円ショップに良い円筒があったのでそれを採用。
- ペットボトルの口の部分を下にして、蓋に穴を開けて空気を送ればいいか → めっちゃ水漏れする。水漏れしないようホースとの接続部を含めたモデルにする必要があった。
- 印刷したモデルから水が染み出る → 防水ニスを塗るんだ。3Dプリンターの造形物は目に見えない隙間だらけなので。
- LEDが弾け飛んだ → 回路設計ミス。LEDストリップを使うと簡単で派手で間違いない。
- エアポンプを動かすとセンサーが不安定 → 基準電圧が急変してセンサーが酔っちゃうみたいで、結局センサーは使わないことにした。声を出したら光と気泡で返事する、みたいなのを作りたかったんだけど。
などなどなどのトラブルを解決しながら、どうにか完成させたのであった。結局中に入れるのに適した脳も人工生命体も良いものが見つからず、プラスチックビーズを入れるにとどまっているのが残念ではある。たぶんリカちゃん人形がジャストフィットだと思うんだけど、ビデオ会議の背景に培養されてるリカちゃんがいたら一目置かれちゃうと思うんすよね。

今まで買ってきたもの
自分が実際に買ったものにリンクを張っている。
これがないと始まらない
3Dプリンター
積層式(FDM)の物が一般的で、最初はFDMで良いと思う。光造形式はレジンを紫外線で硬化させる一手間が面倒なんじゃないかと思うんだけど、使ったこと無いのでわからない。フィギュア作るなら光造形式がいいのかも。
自分はこのCreality K1というのを買ったのだけど、説明書やら作りやらがそこそこ不親切と言うか経験者向けであった。フィラメント交換の方法すら説明書に載ってないし。悪い機械じゃないと思うんだけど、すごく強くおすすめするわけではない。ハズレのファームウェアが時折配信されるため、Redditなどで人柱の報告が上がってからバージョンアップしないと本当に詰む。印刷は早い。
印刷可能サイズが意外と重要で、平面 220mm x 220mm の印刷サイズだと作れないものが結構多い。特に出来合いのモデルを印刷する時に引っかかることが多いので、設置場所と予算に問題がなければ大きいのを買ったほうが良い。まあ大体の場合は問題があるので、適当なところで折り合おう。
複数のフィラメントが同時に使える機種だとカラー印刷ができるみたいだけど、カラー印刷って正直あんまり必要ないよな……と思っていたら、サポート部を水溶性のフィラメントで印刷し、水に溶かしてサポートを除去するという技があるらしく、俄然羨ましくなった。でもかなりお高いので、いまのが壊れてからでいいかな。
フィラメント
色々あるけど、PLAが一番楽で手っ取り早かった。耐熱性が低いので、食洗機には耐えない。3年くらいでぼろぼろになるという話だが、まだそこまで経過した印刷物がないので判断しがたい。日光に当てなければもうちょっと保っても良さそうだけど。
ABSは耐熱性が高くて食洗機にも耐えるのだけど、処理温度も高いので扱える3Dプリンターが限られる上、有害なガスが出るので屋内で使うのは気が引けるという問題がある。自分はいちいちプリンターを庭に出して印刷していた。
PETG(ペットボトルの素材)は妙に設定が難しくて、大量のスパゲッティを生成した挙げ句に投げ出してしまった。その後スライサーがアップデートされると綺麗に印刷できるようになり、首を傾げている……けどPLAの代わりに使うほどではなかった。
モデリングソフト
工業をしたいのか工芸をしたいのかで大きく分かれ、工業をしたいなら3D CAD、工芸なら3D モデラーを選ぶことになるんじゃないかと思う。手にノギスや物差しを握っていたら、やりたいのは工業の方だ。
3D CADならFusion 360を使う人が多いと思うのだけど、バザーなんかで大量に作るとライセンスが微妙(一定の条件を満たすと有償になって結構高い)だったので無料のFreeCADを使っている。日本語のドキュメントがかなり少ないので、公式サイトを辞書と機械翻訳の助けを得ながら読み進める必要があるのが難点だけど、なにせ無料でできる範囲が広いのが魅力的。謎のエラーが出てモデルを元に戻せなくなることが多いので(人間のスキルの問題)、定期的にモデルのバックアップを取っておこう。
最近思うのは、ソフトウェア開発の経験者はOpenSCADあたりを使ってコードでモデリングしたほうが理解も作業も早いんじゃないかということ。GUIがあったほうが分かり易いに決まってるじゃないかと思っていたのだが、一度作ったものを複数の場所で再利用しようとか、一部のパラメータを変更して再利用しようみたいなのが意外と難易度高いので。
工芸をしたい人はBlenderあたりが良いのかな。
一週間以内には購入してるだろうもの
デジタルノギス
他のものとの現物合わせで何かを作るときには必須。安物を買ったのだけど、電池がすぐに外れるとか筐体がペラペラで頼りないとか、安物感があふれるものだったので、もうちょっと出資してもいいと思う。長く使えるものだし。
ニッパー
サポート材を除去するのに絶対に必要。あとラジオペンチ出すのが面倒な時につまんだりねじったりするのに使う(そして刃先をダメにしてしまう)。
使い捨て感覚で安いやつを使ってるんだけど、高いものを丁寧に使ったほうが人としての階梯が一段高い。
スティックのり
ベースプレートにフィラメントが固着しないとすぐにスパゲッティになってしまうので、印刷前にスティックのりを塗っておくことがメーカーからも推奨されている。こののりは3Dプリンター使いからも評判が良かったので選んだのだけど、確かにちゃんと固着してくれる。
のりじゃなくて専用の薬剤もあるみたいなので、そっちのほうが本当は良いのかも。
一ヶ月以内には購入しているだろうもの
棒ヤスリ、布ヤスリ
サポート材の除去跡や、人が触るところのギザギザを削るのに使う。
ソルダーエイド
棒状の工具で、穴を開けたり細かいところを削ったりするのに使う。サポート材の除去や、印刷しなおしするほどじゃない微細な修正などに。
ラジオペンチ
ニッパーでサポート材をつまんで引きちぎる、みたいなことを一ヶ月もやっていると刃先が駄目になっているだろうから、ラジオペンチを買ういい時期だ。道具はちゃんとその目的に従って使うべき、なんだけどニッパーが万能すぎてな。
一年以内には購入しているかもしれないもの
耐水ニス
いや、普通は買わないかな……
3Dプリンターの造形物は隙間だらけなので、液体を保持するもの(コップとか培養槽とか)を作るなら必ず必要になる。また、口に触れるもの(弁当箱の仕切りとか、クッキーの型とか)も耐水ニスでコーティングすべき。
意外と使い所が多いので、刷毛と一緒に買うと何かと便利。
替えのノズル
ノズルは消耗品なので、数ヶ月も使ったら交換することになるはず。ちゃんと自分のプリンターで使えるやつを確認して買おう。ついでにクリーニング用の針も。
フィラメント保存キット
フィラメントは湿気に弱いので、長く使わないときは袋にしまって真空パックして保存しておくのがお勧めされている。まあ出し入れは面倒なんだけど。湿気のない土地の民が羨ましくなる。
ヒートガン
要は強力なドライヤーで、主に熱収縮チューブを収縮させるのに使うのだけど、実は糸引きの除去にめちゃめちゃ有能なことに気づいた。表面を滑らかにするにもヤスリよりよっぽど楽な上に仕上がりが良く、思わず過度に使ってしまう。そして溶かしすぎてやり直しになる。
裏技的な使い方として、微妙に歪んじゃった印刷物を熱して柔らかくして、手で捻じ曲げて修正することもできる。熱いけど。熱いんだよ。
人によっては刺さる用途もあるかも
フィラメントドライヤー
湿気ったフィラメントを乾燥させたり、特に乾燥させてから印刷させたい時に使う道具。実際に役に立ってるかどうかはちょっと良くわからない。湿気る前に保存して使い切っちゃうのが本当は良いはず。
バリ取り工具
バリ取り専用の工具があって、プロが使うとすごく効率がいいらしいのだけど、なかなかうまく使えない。
フィラメント圧着工具
中途半端な長さのフィラメントを、新しいフィラメントにくっつけて無駄をなくすもの。うまく着けられた試しがないのだけど、高いものじゃないので我こそはという人はチャレンジしてみては。
フィラメント有効利用のtipsとして教えてもらったのは、フィラメントを使い切った時に芯の重さを記録しておくと、次に同じ製品を買った時に正確なフィラメント残量が計算できるよ、というもの。フィラメントを圧着するよりこっちのほうが楽で実用的かもしれない。
みんなも買おう3Dプリンター
「お、これは3Dプリンターで簡単に解決できるな」と思う機会が思ったより多く、モデリングして印刷して実用するまで一時間もかからないので、目に見えて生活が変わる。いや、生活はそんなに変わらないんだけど「これは自力でどうとでもなるな(やるやらないは別として)」という自尊心と言うか自律心を涵養できるのが、何かと辛い中年男性にハリを与えてくれるというべきか。
年若い人は、なにか始めるなら一流になりたい、あるいは一人前になりたい、みたいな高めの目標を立てちゃって逆に辛くなってしまいがちだ。四十路ともなると初心者から初級者、あわよくば中級者の入口くらいに到達できたら上出来だな、みたいな低めの目標の方が現実的だし、目標が低いとプレッシャーなしに活動できるのでとても気楽だ。三日坊主を恐れずに、とりあえず買ってみたら良いんじゃないかと思う。
空調服と水冷服を買った
ウチのゴールデンレトリバー(4歳)はそれなりの散歩を必要とするのだけど、この時期は人畜ともに辛い。畜の方は保冷剤を悲鳴嶼行冥のように首に巻くことで一定の解決を見たのだが、人の方はただ耐えるより無かった、のは先週までの話。

空調服
空調服は
- 専用の服
- ファンユニット
- 専用バッテリー
の3点から成るもので、これを別々に買ってくっつける必要がある。めんどくさいなと思ったものの実は合理的で、服は汗をかいた時に服だけ洗えるし、専用バッテリーは複数用意することで充電できない環境下でも長時間利用できる。どのみち犬の散歩にはオーバースペックではある。 バッテリーはモバイルバッテリーのような汎用品ではなく専用品で、というのも最低でも7V, 最大だと22Vの電圧を引っ張ってくるので専用品が必要になってしまうようだ。USB PDというキーワードが脳裏をよぎるけど、その場合ファンユニットに仕込みが必要になってしまって厄介だろう。専用品を使うというのは納得がいく。ただ結構デカくて重いので、ジョギングのお供にするのは厳しいんじゃなかろうか。
全部で23,300円。結構お高い。
散歩に使うべく電源をいれると、デフォルトでは4段階中下から2番目の強さで送風されるのだが、デスクトップPCのファンが全力で回ったくらいの騒音が発生する。最強にすると人体からサーバールームの音がする。最小だと発熱したSwitchくらいの音になるので、室内でも使えなくはないと思う。
歩き始めはよくわからないものの(首筋に保冷剤を入れることができて、それはひんやりする)、汗ばんでくると汗が強制的に冷却・揮発されて体が冷えるのがよく分かる。こいつは良いものだ。気温が低ければ汗をかいてなくても涼しいと思うが、その場合空調服を着なくてもいいと思う。
もちろん、雨上がりのように湿度が高い条件だと全然汗が揮発しないので、あんまり効果がない。それでも、一定の場所で運動して体の周りに熱い空気がまとわりついているような状態だと、熱い空気を吹き飛ばしてくれるので使いではある。
注意点として、空気が腰から胸元に向けて抜けていくので、口を開けたままのウンチ袋を腰だめに持つと匂いが全身を巡った挙げ句に鼻腔へと飛び込んでいく。ピギャ、みたいなかわいい悲鳴を上げたくないなら気をつけるべきだ。僕ももう二度と上げたくない。
もうちょっと役に立つ注意点として、ボディバッグやリュックサックを装備していると風が抜けなくなって涼しくなくなるので、荷物は腰に巻くなり手に持つなりする必要がある。
うちのお嬢さんが教室の冷房が弱くて困ってると言うので空調服を勧めてみたのだが、ベイマックスみたいに膨らんだ空調服の背中を見て No thank you されてしまった。ハンディファンより便利だと思うんだけどな。まあ、満員の通勤電車で使う勇気はない。
水冷服
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B0BV5H3P81/ref=ppx_yo_dt_b_asin_title_o01_s00?ie=UTF8&psc=1
こっちは全てがセットになっていて、
- 専用のベスト
- 水と氷をいれるタンク
- ベストを巡るホース
- 水を巡らせるためのポンプ
- 汎用バッテリー
がくっついて11,000円。元広島県民のよしみで地場メーカーの物を選んだが、安いものはもっと安い。一般に、空調服よりかなり安い。
空冷と違って水冷はポンプがそんなに頑張る必要がないので、バッテリーは一般的なモバイルバッテリーだ。連続運転しても12時間、間欠運転だと50時間保つとのこと。バッテリーより先に確実に氷が溶ける。
タンクに少量の水と、氷あるいは凍ったペットボトルや保冷剤を入れ、それをポンプを使ってベストを巡るホースに循環させる仕組みだ。水と氷を用意するぶん、空調服より一手めんどくさい。
めんどくさいのだけど、効果が条件に左右される空調服と違って、常にひんやりと冷たいのは水冷服の良いところだ。そう、涼しいじゃなくて、冷たい。水冷服とはずいぶん感覚が違う。これは別のものだ。音も極めて静かだし、室内でも使いやすいだろう。でも結構嵩張るので、客商売の人がこれを使えるかと言うとかなり厳しい感じはする。スーツの下に着ると要人警護の人だと思われるだろう。しかも結露で滲んでくるし。
氷の持ちは結構悪く、いやもちろん流量の設定次第だと思うのだが、パンパンに氷を入れても1時間半が経つ頃には溶け切っている感じだ。一日に二回使おうとするとたぶん製氷機が追いつかないだろう。とはいえコンビニで凍ったペットボトルや氷は手に入るから、自転車通勤に使うなら帰りのぶんはコンビニで調達すれば良さそうだ。
空調服+水冷服
どっちかだけで良いのでは?と思っていたのだが、組み合わせるとぐんと快適度が上がる。空調服が扇風機で、水冷服が保冷剤だとするなら、空調服+水冷服はエアコンに近い。
水冷服で冷やされた空気が胸元から顔にかけて吹き付けられるので、気温や体温が高くても涼しいような気持ちになれるのがたぶん大きいのだろう。また、水冷服を内側に着るのだが、結露することによって汗をかかなくても気化熱を奪ってくれるのも相乗効果の一つだ。あんまり風量を強くしても冷たい空気を無駄に逃していくばかりなので、水冷服が完全に乾いてしまわない適度な強さで送気するのが使い方のコツかも知れない。氷も長持ちしやすいし。
これなら行けるかと思い、庭(31℃)でローラー台の自転車を漕いでみた。案の定、涼しい時期と同じような感覚で体を動かせたので、通勤で自転車が使いにくくなる時期の運動不足解消に使えるな……と思ったのだが40分たたずに氷が溶け切って地獄と化した。もっと暑い時期は更に早く氷が溶けるだろうし、何らかの工夫がいるだろう。室内でやるとか。空調服も水冷服も要らんやん。


























