3Dプリンターを買って9ヶ月が経ったけどこんな物を作ったり買ったりしたよ
昨年の夏に引っ越しし、部屋が広くなったのを良いことに3Dプリンターを買ったのが昨年10月のこと。
三日坊主になるかなと恐れていたのだけど(四十路ともなると三日坊主の記憶に事欠かない)、出来合いのモデルを印刷するだけでなく、3D CADを学んでオレオレモデルを印刷したり、簡単な電気回路やマイコンと組み合わせて工作したりと、後悔しない程度には使い込んでいる。
今まで設計してきたもの
代表的なものだけ。
犬

いろんなモデラーがあるのは知っていたけど、どうせならCGもできたら一石二鳥だよねということでBlenderを使い始め、チュートリアルで作ったもの。 犬飼ってるのにこれは酷い、と家族からさんざん叩かれる。しかも印刷もうまくできなかった。
弁当箱の仕切り板

なくすと意外と不便なアイテム。デジタルノギスで寸法を取ってBlenderで作ったのだが、家族には好評であった。のだけど、食洗機にかけたら一発で融解してしまった。PLAの耐熱性の弱さを思い知る。その後ABSで作り直したのだが、お弁当本体が壊れてしまいゴミ箱へと消えた。
そして、デジタルノギスで寸法を取る必要があるようなものは、Blenderは向かないんじゃない?という結論に至る。
めがねホルダー

FreeCADによる最初のモデル。寝る時にメガネを置く場所に困っていたので、ヘッドボードにかけるめがねホルダーを作ってみた。初めて作った割にできが良く、非常に便利だった。後に腕が折れてしまったので改良版を作り、今に至る。

暗いと見えないので蓄光塗料を塗っているところ。
テレビリモコンの電池の蓋

数年前にリモコンの電池の蓋のツメが割れてしまい、セロファンテープで電池を固定していたのだけど、流石にカッコ悪いし不便だったので代替品を作ってみた。これはモデリングだけじゃなくて試行錯誤に時間がかかり、既存のものにピッタリはまる部品を印刷することの難しさを身を持って学ぶことになった。そしてデジタルノギスのありがたさを再認識する。
ヘアゴム用アクセサリの芯

奥様の手芸用の部品。これを二つ用意してヘアゴムを挟み、気合を入れて押し込むと球となってアクセサリの芯になるのだ。これは評判が良くて、じきにバザー向けに大量生産の予定。
自作キーボードの筐体

会社の遠足で自作キーボードを作ったのだけど、筐体が高かった(4000円くらい?)ので自分で作ったるわ!と意気込んで作ったもの。これはもう本当に時間がかかってしまい、現物合わせでモデル作るのって本当に手間なんだということを再認識させられた。買う価値あるわ。キーキャップも作ったけど、これもちょっとゆるいと取れるし、ちょっときついと嵌まらないしで。
培養槽

ほら、脳とか人工生命体とかを培養槽で育てたいじゃないですか。謎に光ったり、泡が出たりして。なので、光って泡が出る培養槽を作った。
これは無駄に数カ月を要し、
- ペットボトルを使えば簡単にできそう → プレーンなデザインのペットボトルは案外少なく、上下を切ると意外と寸足らずだったので却下。100円ショップに良い円筒があったのでそれを採用。
- ペットボトルの口の部分を下にして、蓋に穴を開けて空気を送ればいいか → めっちゃ水漏れする。水漏れしないようホースとの接続部を含めたモデルにする必要があった。
- 印刷したモデルから水が染み出る → 防水ニスを塗るんだ。3Dプリンターの造形物は目に見えない隙間だらけなので。
- LEDが弾け飛んだ → 回路設計ミス。LEDストリップを使うと簡単で派手で間違いない。
- エアポンプを動かすとセンサーが不安定 → 基準電圧が急変してセンサーが酔っちゃうみたいで、結局センサーは使わないことにした。声を出したら光と気泡で返事する、みたいなのを作りたかったんだけど。
などなどなどのトラブルを解決しながら、どうにか完成させたのであった。結局中に入れるのに適した脳も人工生命体も良いものが見つからず、プラスチックビーズを入れるにとどまっているのが残念ではある。たぶんリカちゃん人形がジャストフィットだと思うんだけど、ビデオ会議の背景に培養されてるリカちゃんがいたら一目置かれちゃうと思うんすよね。

今まで買ってきたもの
自分が実際に買ったものにリンクを張っている。
これがないと始まらない
3Dプリンター
積層式(FDM)の物が一般的で、最初はFDMで良いと思う。光造形式はレジンを紫外線で硬化させる一手間が面倒なんじゃないかと思うんだけど、使ったこと無いのでわからない。フィギュア作るなら光造形式がいいのかも。
自分はこのCreality K1というのを買ったのだけど、説明書やら作りやらがそこそこ不親切と言うか経験者向けであった。フィラメント交換の方法すら説明書に載ってないし。悪い機械じゃないと思うんだけど、すごく強くおすすめするわけではない。ハズレのファームウェアが時折配信されるため、Redditなどで人柱の報告が上がってからバージョンアップしないと本当に詰む。印刷は早い。
印刷可能サイズが意外と重要で、平面 220mm x 220mm の印刷サイズだと作れないものが結構多い。特に出来合いのモデルを印刷する時に引っかかることが多いので、設置場所と予算に問題がなければ大きいのを買ったほうが良い。まあ大体の場合は問題があるので、適当なところで折り合おう。
複数のフィラメントが同時に使える機種だとカラー印刷ができるみたいだけど、カラー印刷って正直あんまり必要ないよな……と思っていたら、サポート部を水溶性のフィラメントで印刷し、水に溶かしてサポートを除去するという技があるらしく、俄然羨ましくなった。でもかなりお高いので、いまのが壊れてからでいいかな。
フィラメント
色々あるけど、PLAが一番楽で手っ取り早かった。耐熱性が低いので、食洗機には耐えない。3年くらいでぼろぼろになるという話だが、まだそこまで経過した印刷物がないので判断しがたい。日光に当てなければもうちょっと保っても良さそうだけど。
ABSは耐熱性が高くて食洗機にも耐えるのだけど、処理温度も高いので扱える3Dプリンターが限られる上、有害なガスが出るので屋内で使うのは気が引けるという問題がある。自分はいちいちプリンターを庭に出して印刷していた。
PETG(ペットボトルの素材)は妙に設定が難しくて、大量のスパゲッティを生成した挙げ句に投げ出してしまった。その後スライサーがアップデートされると綺麗に印刷できるようになり、首を傾げている……けどPLAの代わりに使うほどではなかった。
モデリングソフト
工業をしたいのか工芸をしたいのかで大きく分かれ、工業をしたいなら3D CAD、工芸なら3D モデラーを選ぶことになるんじゃないかと思う。手にノギスや物差しを握っていたら、やりたいのは工業の方だ。
3D CADならFusion 360を使う人が多いと思うのだけど、バザーなんかで大量に作るとライセンスが微妙(一定の条件を満たすと有償になって結構高い)だったので無料のFreeCADを使っている。日本語のドキュメントがかなり少ないので、公式サイトを辞書と機械翻訳の助けを得ながら読み進める必要があるのが難点だけど、なにせ無料でできる範囲が広いのが魅力的。謎のエラーが出てモデルを元に戻せなくなることが多いので(人間のスキルの問題)、定期的にモデルのバックアップを取っておこう。
最近思うのは、ソフトウェア開発の経験者はOpenSCADあたりを使ってコードでモデリングしたほうが理解も作業も早いんじゃないかということ。GUIがあったほうが分かり易いに決まってるじゃないかと思っていたのだが、一度作ったものを複数の場所で再利用しようとか、一部のパラメータを変更して再利用しようみたいなのが意外と難易度高いので。
工芸をしたい人はBlenderあたりが良いのかな。
一週間以内には購入してるだろうもの
デジタルノギス
他のものとの現物合わせで何かを作るときには必須。安物を買ったのだけど、電池がすぐに外れるとか筐体がペラペラで頼りないとか、安物感があふれるものだったので、もうちょっと出資してもいいと思う。長く使えるものだし。
ニッパー
サポート材を除去するのに絶対に必要。あとラジオペンチ出すのが面倒な時につまんだりねじったりするのに使う(そして刃先をダメにしてしまう)。
使い捨て感覚で安いやつを使ってるんだけど、高いものを丁寧に使ったほうが人としての階梯が一段高い。
スティックのり
ベースプレートにフィラメントが固着しないとすぐにスパゲッティになってしまうので、印刷前にスティックのりを塗っておくことがメーカーからも推奨されている。こののりは3Dプリンター使いからも評判が良かったので選んだのだけど、確かにちゃんと固着してくれる。
のりじゃなくて専用の薬剤もあるみたいなので、そっちのほうが本当は良いのかも。
一ヶ月以内には購入しているだろうもの
棒ヤスリ、布ヤスリ
サポート材の除去跡や、人が触るところのギザギザを削るのに使う。
ソルダーエイド
棒状の工具で、穴を開けたり細かいところを削ったりするのに使う。サポート材の除去や、印刷しなおしするほどじゃない微細な修正などに。
ラジオペンチ
ニッパーでサポート材をつまんで引きちぎる、みたいなことを一ヶ月もやっていると刃先が駄目になっているだろうから、ラジオペンチを買ういい時期だ。道具はちゃんとその目的に従って使うべき、なんだけどニッパーが万能すぎてな。
一年以内には購入しているかもしれないもの
耐水ニス
いや、普通は買わないかな……
3Dプリンターの造形物は隙間だらけなので、液体を保持するもの(コップとか培養槽とか)を作るなら必ず必要になる。また、口に触れるもの(弁当箱の仕切りとか、クッキーの型とか)も耐水ニスでコーティングすべき。
意外と使い所が多いので、刷毛と一緒に買うと何かと便利。
替えのノズル
ノズルは消耗品なので、数ヶ月も使ったら交換することになるはず。ちゃんと自分のプリンターで使えるやつを確認して買おう。ついでにクリーニング用の針も。
フィラメント保存キット
フィラメントは湿気に弱いので、長く使わないときは袋にしまって真空パックして保存しておくのがお勧めされている。まあ出し入れは面倒なんだけど。湿気のない土地の民が羨ましくなる。
ヒートガン
要は強力なドライヤーで、主に熱収縮チューブを収縮させるのに使うのだけど、実は糸引きの除去にめちゃめちゃ有能なことに気づいた。表面を滑らかにするにもヤスリよりよっぽど楽な上に仕上がりが良く、思わず過度に使ってしまう。そして溶かしすぎてやり直しになる。
裏技的な使い方として、微妙に歪んじゃった印刷物を熱して柔らかくして、手で捻じ曲げて修正することもできる。熱いけど。熱いんだよ。
人によっては刺さる用途もあるかも
フィラメントドライヤー
湿気ったフィラメントを乾燥させたり、特に乾燥させてから印刷させたい時に使う道具。実際に役に立ってるかどうかはちょっと良くわからない。湿気る前に保存して使い切っちゃうのが本当は良いはず。
バリ取り工具
バリ取り専用の工具があって、プロが使うとすごく効率がいいらしいのだけど、なかなかうまく使えない。
フィラメント圧着工具
中途半端な長さのフィラメントを、新しいフィラメントにくっつけて無駄をなくすもの。うまく着けられた試しがないのだけど、高いものじゃないので我こそはという人はチャレンジしてみては。
フィラメント有効利用のtipsとして教えてもらったのは、フィラメントを使い切った時に芯の重さを記録しておくと、次に同じ製品を買った時に正確なフィラメント残量が計算できるよ、というもの。フィラメントを圧着するよりこっちのほうが楽で実用的かもしれない。
みんなも買おう3Dプリンター
「お、これは3Dプリンターで簡単に解決できるな」と思う機会が思ったより多く、モデリングして印刷して実用するまで一時間もかからないので、目に見えて生活が変わる。いや、生活はそんなに変わらないんだけど「これは自力でどうとでもなるな(やるやらないは別として)」という自尊心と言うか自律心を涵養できるのが、何かと辛い中年男性にハリを与えてくれるというべきか。
年若い人は、なにか始めるなら一流になりたい、あるいは一人前になりたい、みたいな高めの目標を立てちゃって逆に辛くなってしまいがちだ。四十路ともなると初心者から初級者、あわよくば中級者の入口くらいに到達できたら上出来だな、みたいな低めの目標の方が現実的だし、目標が低いとプレッシャーなしに活動できるのでとても気楽だ。三日坊主を恐れずに、とりあえず買ってみたら良いんじゃないかと思う。









